デジタル時代の心の距離

ネットでいつも「好きなものばかり」見るのが、人との会話を減らす?〜心地よい情報との距離感を考えるヒント〜

Tags: 情報リテラシー, 情報の偏り, 人間関係, 会話, デジタル時代, 孤独

はじめに

インターネットやスマートフォンを使う時間が増えるにつれて、私たちの目に触れる情報も大きく変わってきました。特に最近は、あなたが過去に見たものや調べたこと、興味を持ったものに合わせて、「あなたへのおすすめ」として情報が表示されることが増えています。

これは、まるで自分だけの「お気に入り」だけを集めた本棚のようで、見たい情報にすぐたどり着けるため、とても便利で心地よく感じられるかもしれません。しかし、いつも自分の「好きなものばかり」を見ていると、私たちの考え方や、周りの人との会話に、知らず知らずのうちに影響が出ている可能性があることをご存知でしょうか。

今回の記事では、なぜネットでは「あなたへのおすすめ」ばかりが表示されるのか、そして情報の偏りが私たちの人間関係や、人との会話にどのような影響を与える可能性があるのかを考えていきます。そして、デジタル時代に心地よい情報との距離感を保ち、人との温かい繋がりを大切にするためのヒントを探っていきましょう。

なぜネットでは「あなたへのおすすめ」ばかり表示されるのか?

インターネット上のサービス(例えば、ニュースアプリや動画サイト、SNSなど)の多くは、「アルゴリズム」という仕組みを使っています。これは、あなたが過去にどんな記事を読んだか、どんな動画を見たか、どんな投稿に「いいね!」をしたか、といった行動の記録をもとに、「この人はこんな情報が好きだろう」と予測し、関連性の高い情報を優先的に表示するコンピュータープログラムのことです。

これは例えるなら、昔から行きつけのお店で、店員さんがあなたの好みを覚えていて、「いつものあれ、ありますよ」「こんな新しい商品も好きかもしれませんね」と勧めてくれるようなものです。デジタル技術が進化したおかげで、ネットの世界では、お店の店員さんのように、あなたの興味関心に合わせた情報が自動的に目の前に届けられるようになったのです。

この仕組みのおかげで、私たちは探す手間を省いて、効率的に自分にとって役立つ情報や、楽しい情報にアクセスできるようになりました。知らなかった新しい趣味が見つかったり、同じ興味を持つ人たちの情報にたどり着きやすくなったりする良い面もあります。

「好きなものばかり」見ることで生まれる可能性のある影響

しかし、いつも「あなたへのおすすめ」ばかりを見ていると、私たちの周りに集まる情報が、自分の興味の範囲内に限定されてしまうことがあります。これを「フィルターバブル」や「エコーチェンバー現象」と呼ぶこともあります。

これは、自分と似た考えの人たちの意見ばかりを目にしたり、自分の好きな情報ばかりに囲まれたりすることで、まるで泡(バブル)の中に閉じ込められたように、外の世界の多様な情報や、自分とは異なる意見に触れる機会が減ってしまう現象です。

このような情報の偏りが、私たちの人間関係や人との会話に次のような影響を与える可能性があります。

1. 視野が狭まる

自分と異なる考え方や、自分が関心を持たない分野の情報に触れる機会が減ると、世の中には様々な考えや事実があることに気づきにくくなることがあります。これが続くと、物事を多角的に見ることが難しくなるかもしれません。

2. 人との話題のズレが生じる

家族や友人、地域の人たちと話すとき、自分が普段見ている情報と、相手が見ている情報が全く違う、ということが起こりやすくなります。自分にとっては当たり前の情報でも、相手は全く知らないかもしれませんし、逆に相手が話すことが自分にはピンとこない、という状況が増える可能性があります。共通の話題が見つけにくくなり、「あれ、話が合わないな」と感じることが増えるかもしれません。

3. 共感しにくくなる

自分と異なる意見や状況に関する情報に触れる機会が減ると、自分とは違う立場にいる人の気持ちや考えを想像したり、共感したりすることが難しくなることがあります。これが人間関係において、少しずつ心の距離を生む可能性も考えられます。

4. 孤立感を感じることも

もし、いつも見ている情報が偏ってしまい、周りの人たちとの話題が合わないと感じることが増えると、会話が億劫になったり、「自分だけが違う世界を見ているようだ」と感じて、なんとなく孤立しているような気持ちになることもあるかもしれません。

もちろん、これは「あなたへのおすすめ」機能だけが原因ではありませんし、人によって感じ方は様々です。しかし、デジタル技術が進化したことで情報の受け取り方が変わったことが、私たちの心の繋がり方に影響を与える可能性がある、ということは意識しておきたい点です。

心地よい情報との距離感を保つためのヒント

デジタル時代に情報の偏りを意識し、人との温かい繋がりを大切にするために、いくつか考えられるヒントがあります。

1. 意識的に多様な情報に触れてみる

いつも見ているウェブサイトやアプリだけでなく、たまには別のニュースサイトを見てみたり、普段は読まない分野の記事を手に取ってみたりすることをおすすめします。家族や友人が話題にしていることに耳を傾け、自分から質問してみるのも良いでしょう。少し視野を広げることで、新しい発見や共通の話題が見つかるかもしれません。

2. 「おすすめ」だけでなく、自分で情報を探しに行く時間も大切に

「おすすめ」される情報は便利ですが、たまには自分で興味のあることを検索したり、気になったニュースについて別の視点から調べてみたりする時間を持つことも大切です。受け身で情報を受け取るだけでなく、主体的に情報にアクセスすることで、情報の偏りに気づきやすくなります。

3. リアルな会話で「生きた情報」に触れる

ネットの情報は便利ですが、実際に人と顔を見て話したり、声を聞いたりすることから得られる情報は、文字だけでは分からない感情や、その人の経験に基づいた「生きた情報」です。日常の挨拶や短い立ち話、電話での会話など、リアルな交流を大切にすることで、ネットの情報だけでは得られない心の繋がりや、多様な考え方に触れることができます。相手の話をじっくり聞く姿勢も、情報の偏りを補い、人間関係を豊かにしてくれます。

4. 共通の話題を意識してみる

地域の情報、天気、季節の出来事など、多くの人が関心を持つ可能性のある話題にも少し目を向けてみましょう。こうした身近な話題は、人との会話のきっかけになりやすく、情報の偏りがあっても共通点を見つけやすいことがあります。

まとめ

インターネットの「あなたへのおすすめ」機能は、私たちの情報収集を効率的で心地よいものにしてくれます。しかし、それが情報の偏りを生み出し、知らず知らずのうちに私たちの視野や、人との会話に影響を与える可能性も理解しておくことが大切です。

デジタル技術の便利さを上手に活用しながらも、意識的に多様な情報に触れ、自分で情報を探しに行く時間を持つこと。そして何より、リアルな人との会話を大切にすること。こうした心がけが、情報の偏りを和らげ、デジタル時代においても人との温かい繋がりを守り、心地よい心の距離を保つための大切なヒントとなるでしょう。

デジタルはあくまでツールです。それをどう使うかで、私たちの情報世界も、そして人との繋がり方も変わってきます。情報の波に流されるだけでなく、自分で舵を取りながら、豊かな人間関係を育んでいきましょう。