デジタル時代の心の距離

社会のデジタル化が進んで感じる疎外感〜人との繋がりを失わないためのヒント〜

はじめに：いつの間にか進む「社会のデジタル化」

最近、街の中や役所、お店などで、少しずつ様子が変わってきたと感じることはありませんか。以前は窓口で直接やり取りしていた手続きが、機械の操作やインターネット上で行うようになったり、買い物の支払いがスマートフォンで済ませられるようになったり。こうした変化は「社会全体のデジタル化」と呼ばれています。

私たちの生活は、デジタル技術の進歩によって便利になった面もたくさんあります。遠く離れた家族とビデオ通話ができるようになったり、知りたい情報をすぐにインターネットで調べられたり。

その一方で、こうしたデジタル化の波に少し戸惑いを感じている方もいらっしゃるかもしれません。「どうすればいいのかよく分からない」「なんだか自分だけが取り残されていくようだ」と感じ、それが寂しさや孤独感につながってしまうこともあります。

この記事では、社会全体のデジタル化が進む中でなぜ疎外感を感じてしまうのか、そしてその感情とどのように向き合い、人との大切な繋がりを失わずに暮らしていくためのヒントについて考えてみたいと思います。

社会のデジタル化が「疎外感」につながる理由

社会のデジタル化は、私たちの生活の様々な場面で進んでいます。例えば、次のような経験はありませんか。

• 行政手続きのオンライン化: 役所での手続きがインターネットでできるようになり、窓口が減った。
• キャッシュレス決済の普及: お店での支払いが現金以外（スマートフォン決済など）が中心になりつつある。
• 情報入手の変化: テレビや新聞だけでなく、インターネットやスマートフォンのニュースアプリなどでの情報収集が主流になった。
• 無人化・セルフ化: 店舗での注文や会計が、店員さんとのやり取りではなく、タッチパネルの操作になった。

こうした変化は、デジタル技術に慣れている人にとっては便利に感じられます。しかし、そうでない方にとっては、操作方法が分からなかったり、困った時に誰に聞けば良いのか分からなかったりすることがあります。

特に、これまで当たり前だった「人と人との直接的なやり取り」が減ることで、「自分は世の中のやり方についていけていないのではないか」という感覚や、「分からなくて恥ずかしい」「聞ける相手がいない」といった不安を感じやすくなります。これが「疎外感」と呼ばれるものです。

疎外感が深める「孤独」

この疎外感は、さらに孤独感を深めてしまうことがあります。

• 話題の減少: 友人や家族との会話の中で、デジタルサービスや新しい情報機器の話題についていけないと感じ、共通の話題が減ってしまう。
• 相談相手の不在: デジタルで困ったことがあっても、身近に相談できる人がいなかったり、家族に聞くのをためらったりして、一人で抱え込んでしまう。
• 外出機会の減少: デジタル化によって外出しなくても済むことが増えたり、デジタルサービスが使えないために外出をためらったりして、人との直接的な交流の機会が減る。
• 情報の偏り: デジタルで情報収集することが難しいため、必要な情報や地域の情報などから遠ざかってしまう。

こうした状況が続くと、「自分だけが社会から切り離されている」という感覚が強まり、人との繋がりが薄れていくように感じて、孤独を感じやすくなってしまうのです。

もちろん、デジタル技術が良い側面を持っていることも確かです。例えば、遠く離れた孫と顔を見ながら話せたり、共通の趣味を持つ人とオンラインで繋がれたりといった、以前は難しかった方法で人間関係を築くことも可能になりました。しかし、それらの恩恵を受けるためにも、ある程度のデジタルへの慣れが必要となるため、それがかえって疎外感につながる場合もあるのです。

デジタル化社会で「孤立」しないためのヒント

社会のデジタル化はこれからも進んでいくと考えられます。しかし、だからといって、無理にすべてのデジタル技術を使いこなす必要はありません。大切なのは、ご自身のペースで、ご自身にとって心地よい人との繋がり方を大切にすることです。

ここで、デジタル化社会で孤立を感じにくくするためのいくつかのヒントをご紹介します。

1. 「すべてを使いこなす必要はない」と考える: スマートフォン一つとっても、様々な機能があります。メール、LINE、電話、インターネット、地図、写真、支払いなど、全てを完璧に理解する必要はありません。ご自身が「これだけは使いたい」と思う機能やサービスに絞って使ってみることから始めましょう。無理に多くのことを覚えようとせず、できることから、少しずつ慣れていくという考え方が大切です。

2. 「分からない」を声に出してみる: 新しいことや分からないことがあるのは自然なことです。「恥ずかしい」と思わずに、信頼できる家族や友人、地域に設置されているスマートフォンの相談窓口などに「これが分からないんだけど」と聞いてみましょう。一度聞けば、次からは一人でできるようになることもあります。

3. 「アナログ」な繋がりを大切にする: 社会のデジタル化が進んでも、人との繋がり方はデジタルだけではありません。電話で話す、手紙を書く、直接会って話す、地域の集まりや趣味のサークルに参加するなど、これまで大切にしてきたアナログな繋がり方をこれからも大切にしてください。デジタルが苦手でも、こうした対面での交流は、心温まる大切な時間になります。

4. デジタルツールを「繋がりの道具」として活用する（無理のない範囲で）: もし、スマートフォンなどをお持ちであれば、家族や友人との連絡手段として使ってみるのはいかがでしょうか。例えば、LINEであれば、文字を打つのが難しければ音声入力を使ったり、スタンプで気持ちを伝えたりすることもできます。遠隔地に住む家族が孫の写真を送ってくれるのを見るために、写真アプリの使い方を少しだけ覚えるというように、目的を絞ってデジタルツールを使ってみるのも良い方法です。

5. 孤独感を感じたら、誰かに話してみる: 「社会から取り残されているようだ」「なんだか寂しい」といった気持ちは、抱え込まずに誰かに話してみましょう。家族、友人、地域の相談窓口など、話を聞いてくれる相手はきっと見つかります。気持ちを言葉にすることで、心が軽くなったり、解決の糸口が見つかったりすることもあります。

まとめ：多様な繋がり方を受け入れて

社会のデジタル化はこれからも私たちの生活に影響を与え続けるでしょう。その変化の中で、疎外感や孤独を感じてしまうことがあるのは、決して特別なことではありません。

大切なのは、無理にすべてについていこうと気負いすぎず、ご自身のペースで、ご自身に合った方法で人との繋がりを保っていくことです。デジタルな繋がりもあれば、アナログな繋がりもあります。どちらが良い、悪いということではなく、それぞれの良さを理解し、ご自身にとって心地よいバランスを見つけることが大切です。

デジタル技術は、あくまで人との繋がりを助ける「道具」の一つです。道具に振り回されるのではなく、ご自身が主体となって、大切な人たちとの温かい心の繋がりを、これからも大切にしていただければと思います。